【この記事は約 6 分で読み終わります。】

【超効率化】小売業界はAI画像認識技術で顧客の動きを見える化

AIによる画像認識は、人物や商品の自動認識ができるレベルにまでなっている。そしてそれを応用することで、小売業界が抱える売上アップへの施策や、人手不足の解消などにも利用されるようになっている。

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する

AIによる画像認識を利用した小売店向けのソリューションが続々と出て来ている。業界の問題として、いかに売上を上げるかがあるが、来店客数の分析や、店内導線分析、購買率などをカメラ映像からAIが解析する事で、データに基づいた分析が行えるようになった。また、精算も商品をカメラで撮影して自動認識することで、人材不足にも対応できるようになりつつある。

AI(人工知能)-小売

AIの画像認識技術でできることは

AI(人工知能)による小売業の変革が始まっている。特にディープラーニング技術の先鞭を付けた画像認識技術を利用したソリューションが次々と発表されている。これはカメラを設置することである程度は簡単に実現できるのと、カメラに写るものを様々に変えることで応用範囲が広がるというメリットがあるため、スタートアップ企業も参入しやすいというのが、新規参入に拍車を掛けている理由だと考えられる。

カメラが映し出す対象は様々である。最も多いのは人間であるが、顔認証に始まり、店舗内でどの商品を手に取ったのか、どこの売り場に何分くらい滞在したのかまで取得可能となっている。このデータから来店客の行動分析ができれば、店舗で扱う商品を検討する際の基礎データとなる。また、来店客の数をカウントしていけば、曜日や時間のタイミングでいつ頃混雑しそうかなどを自動で判別することができるようになる。これは来店客へ「いつ頃ならばゆっくり買い物ができるか」を事前通知するのに役立つ。

一方、商品の見分けも行えるようになってきた。飲料や菓子類などのパッケージ物は余程のことがない限り間違えることなく認識できるレベルになっている。その技術はJR東日本が実験を行っているエキナカ無人コンビニなどにも応用されている。しかしそこに留まらず、ベーカリーショップ(パン屋)で購入する惣菜パンのように、同じ種類でも個体差があるものでさえ、すでに自動認識の対象範囲となっている。人手不足のため小売業ではいかにして人間の仕事を減らすのかが問題になってきているが、画像認識系のAIはこれを解決してくれる。

画像認識の精度は高いのか

では、画像の認識精度はどれくらいなのであろうか。実際、人物であったり商品であったり、小売業界で画像認識を行いたいAIの活用例は数多くある。これはソリューションにも依るが、無人店舗などで使われるものや、来店客の行動分析を行うものについては、人物をしっかりと特定している。一度認識した人物については、同じ時間帯に店内にいる別の人物としっかり識別している。また、着席している人物についてもしっかりと分けて認識することができている。そのため、例えば現時点で店舗内にいる人数をカウントすることで店舗の混雑具合をチェックし、これまでのデータと組み合わせてこの後の混雑予測などにも利用できるようになっている。

ただし、認識率自体は公開されてはいないが、100%というわけではない。人物を特定するものとしては、東芝が開発した、マラソンなどのロードレース用の画像解析AIが98.1%の精度で自動識別できたとしている。監視カメラなど、固定アングルのカメラだと後から撮されているものも多いため、複数のカメラを設置するなどが必要となる。もっとも、人間が行ったとしても100%にはなかなかならないため、どの程度の精度で良しとするかは、業種や使い方にも依るだろう。

同じように、商品についても複数のものを分解して認識できることがわかっている。しかし不得意なものがある。これはあとで紹介するが、パンなど、同じ種類の商品であっても個体差が大きいものについては、かなり工夫をしないと誤検知が発生するとされている。また、場合によっては複数の商品が重なっていると、個数を上手く認識できないことがある。ただしこれも複数のカメラで撮影することで重なり具合を特定できれば、認識率が上がる事が分かっている。

活用事例1〜AIで売上が伸びない理由と特定

まずは来店客の導線など、人間の行動分析に使われている例から紹介する。これまで監視カメラの映像は万引き防止など、文字通り「防犯」のために利用されていた。が、この映像をAIで分析させることで、自動で来店客一人一人を認識し、店内でどのような導線を辿りながら購買行動をとっているのかを、データとして把握することができる。これまで、POSデータから商品が購入された曜日や時間などはわかっていた。しかし、来店客が「目的の商品を決めて来店」したのか、「店内で衝動的に購入」したのかは、POSデータからはわからない。

AI(人工知能)-顧客の動き

AIによるカメラ映像解析を行う事で、来店客の販売行動を推測することが可能となる。例えば株式会社Flow Solutionsはトラフィックカウンターによる「来店客数計測」や、「店内動向分析」などを提供している店内動向分析は、店内で来店客がよく滞在する「ホットスポット」、逆にあまり滞在しない「コールドスポット」を分析している。これを上手く活用すれば、商品の配置を最適化することが可能となる。また、集めたデータをベースにして店舗スタッフの教育にまで利用している。

同じく株式会社ABEJAは店舗解析サービスとして「ABEJA Insight for Retail」というソリューションを提供している。こちらは店内の導線のみならず、店前通行量や、そこからの入店率、そしてその属性も取得・解析を行っている。そうすれば、どれくらいの割合が入店し、その中でどれだけの人が購入まで行ったのかを分析することができる。また、リピート推定なども行っており、これらの分析ができれば、売上が伸びないのはどこに理由があるのかを推定することができる。これはそれまでの店員の勘や感覚に頼っていた店舗運営から大きく転換するための大きな力となる。

Flow Solutionsはすでに700店舗以上、ABEJAも420店舗以上に導入され、店舗運営の改善に活かされている。

活用事例2〜AIがパンの種類と数量を認識し金額を計算する

次に商品の自動認識に活用している例を紹介しよう。兵庫県西脇市にある株式会社ブレインは、パン屋の自動レジシステム「BakeryScan」を開発し、展開している。

「トレイのパン約10個を約1秒で精算」とうたっており、来店客はトレイにパンを入れてレジに持って行くと、BakeryScanのカメラがトレイの上のパンを撮影。自動的にパンの種類と数量を認識し、金額を計算する。人間は種類と数量が間違っていないかを確認し、パンを袋に詰め、代金の精算を行う事が仕事となる。パンの種類毎の金額を覚える必要はない。

ベテランの店員が多い店舗であればこのようなシステムは不必要かも知れないが、新たに立ち上げた店舗や、頻繁に商品の種類が変わる店舗では、新人のアルバイトやパートでは即対応するというのは難しい。そこで、基本的な認識部分や金額計算などはAIに任せてしまおうというのが、コンセプトである。

ただし人間にも重要な仕事がある。例えば2つのパンが重なってしまっている場合などだ。この場合、AIは上手く種類や個数の認識ができない場合がある。そういう時は人間が、AIの判断した種類と個数を正しく修正する。

ただし、これの開発にはかなり苦労があったようだ。パンは同じ種類であっても具の乗り方、焼き色、形が少しずつ異なる。ディープラーニングでも同様のシステムはできたようだが、学習のために覚えさせる数が多く、データ作成が大変だったという。そのため、パンの種類毎の特徴量を設定し、1つの種類につき、5~6個のサンプルを撮影するだけで認識ができるようにしたという。こういう工夫によって、より手軽にサービスを提供できるようになっている。

まとめ〜AIは小売業界の抱える問題点を解消し続けていく

小売業界では、カメラ映像をAIの画像認識を使って解析する事で、様々な分析を行っている。人間を認識させることで、店舗の混雑具合を予測することにも使われているが、より切実な問題である売上アップのために、入店率や店内導線、そこから購買動機等まで含めて解析できるソリューションが展開されている。また、これにより店内の商品陳列を変更するのはもちろん、スタッフの教育にも活用できるデータを用意することができるようにもなっている。

一方、商品を撮影することで認識することにより、無人店舗での自動精算を実現できるようになってきている。また、同じ商品であっても個体差の大きいパンのようなものでもディープラーニング技術を使う、または場合によっては特徴量を別の方法で特定することにより、自動精算が出来る仕掛けが構築されている。

そしてこれらを利用することで、売上アップはもとより、スタッフの教育、人材不足のフォローなど、小売業界の抱える問題点を解消できるようになりつつある。今後も、小売店をサポートするAIや、ソリューションが次々と展開されることだろう。


<参考>

  1. ABEJA、「売れない理由」をAIで解析、繁盛店に(日経ビジネスONLINE)
    https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/278209/101100161/
  2. AIが小売業を変える3つのソリューション(OPTiM Cloud IoT OS)
    https://www.optim.cloud/blog/use-case/3-solutions-that-change-retail/#analyzing-congestion
  3. AI画像解析 – 人工知能を使った画像解析と映像解析でできること(OPTiM Cloud IoT OS)
    https://www.optim.cloud/blog/ai/ai-image-analysis-use-cases/
  4. 東芝が画像解析AI開発98.1%の精度でロードレーサーを自動識別https://news.mynavi.jp/article/20180803-673495/
  5. 「すごすぎる」――地方のパン屋が“AIレジ”で超絶進化 足かけ10年、たった20人の開発会社の苦労の物語(AI+ ITmedia)
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1705/15/news081.html
  6. 画像認識AIを活用した商品棚認識システム(一般社団法人 日本自動認識システム協会)
    http://www.jaisa.jp/pdfs/170929/a03.pdf
  7. 株式会社ブレイン
    http://corp.bb-brain.co.jp/packages/
  8. 株式会社Flow Solutions
    https://www.flow-solutions.com/home
シェア

役にたったらいいね!
してください

シェアする

  • RSSで記事を購読する
  • はてなブックマークに追加
  • Pokcetに保存する