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SNSでAIはどのように活用されているのか【事例4選紹介】

SNSには情報という名の「宝」が眠っている。しかし宝に到達するには無価値な情報を効率よく捨てなければならない。その役割をAI(人工知能)が担っている。

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ネット上の情報とデータはいまや、企業の命運をわけるとさえいわれている。情報とデータを握ったものが、次の時代の覇権を握ることができる。

「情報の宝庫」といえば、新聞社やテレビ局や雑誌社などのマスコミを思い浮かべるだろうか。確かにマスコミ業界は、政府や自治体や企業や個人などの重要機密を多数握っている。しかし銀行などの金融機関や病院などの医療機関は、個人情報を厳格に守っているので、マスコミが持たない重要情報を持っている。さらに政府や自治体や企業は、国民や住民に知らせることができない情報を保有している。

しかし、マスコミより、金融機関や医療機関より、政府や自治体や企業より情報を持っている「ところ」がある。

それは個人だ。

マスコミは情報源に接して情報を集めることしかできない。しかし、情報源である個人は、自分自身が情報である。個人が持つ自分自身に関する情報は、常に正確かつ最新である。

その個人情報が洪水のように集まるのがSNSだ。SNSに集まった情報はビッグデータと呼ばれ、行政も企業も「宝の山」とみなしている。

ただSNSには使えない情報やデータも多い。そこでAI(人工知能)に白羽の矢が立った。

情報の価値を知っている企業は、AIを使ってSNSの情報を集め、分析し、法則をみつけ出し、近未来を予測しようとしている。

AI  SNS

SNSとAIの相性

SNSとAIの相性は「かなりよい」といえるだろう。なぜならSNSもAIも、ITとネットの「申し子」だからだ。

AI SNS

どうやって金を効率よく掘り起こすか

AIを使ってSNSから重要情報を掘り起こす作業は、金鉱脈から金を掘り出す作業と似ている。

金がなぜあれほど高額になるのかというと、物質としての性質が極めて特殊で似た物質が存在しないことと、掘り出すコストが高いからだ。1トロイオンスの金を掘り出すのに、1,000ドルほどかかる。1トロイオンスは31グラムなので、1グラムの金を掘り出すのに3,000円以上かかる。そして金を5グラム採取するためには、1トンの金鉱脈を掘り起こさなければならない。つまり金5グラムを採るために、せっかく掘った999,995グラムの石や土を捨てているのだ。

つまり金の採掘とは、大金をかけて不要なものを捨てる作業なのである。

SNSから重要情報を集めるのも、不要な情報を捨てる作業が欠かせない。

単なる「おはよう」は不要、「グラノーラを食べたい」は必要

SNSの情報のなかには、Aさんが「おはよう」と文字を打ち、Bさんが「いま起きたの?」と返すチャット会話も含まれている。この「おはよう」「いま起きたの?」の文字情報は使いようがない。SNS情報を活用しようとしている企業は、このチャット会話を捨てなければならない。

ただ、Aさんが「おはよう、今朝は何を食べる?」と文字を打ち、Bさんが「グラノーラというものを食べてみたい」と返したら、このチャット会話は重要な情報になる。

なぜならこの会話には次の情報が含まれているからだ。

・グラノーラを食べたことがない人がいる

・AさんとBさんの所在地でグラノーラの口コミが始まった

・○歳(AさんとBさんの年齢)の人はグラノーラに興味を持ち始めている

グラノーラメーカーなどの朝食ビジネスに商機を見出そうとしている企業なら、この3情報は貴重なマーケティング情報になる。

AIを使うしかない

金はかつて、人がシャベルを使って掘り出していた。しかし今は巨大な重機を使って効率よく掘り出している。

AIはビッグデータを構成する1つひとつの情報を読み込み、整理し、分析し、法則性をみつけ、近未来を予測する。AIはコンピュータだから疲れない。しかも記憶力が抜群なので、情報の見逃しがない。

SNS情報の分析に「AIが便利」というより、「AIを使うしかない」というのが企業の本音だろう。

というのも「おはよう」「いま起きたの?」は無価値で、「グラノーラというものを食べてみたい」に価値がある、との判断は一般の非AIコンピュータではできない。非AIコンピュータでは、「おはよう」「いま起きたの?」に朝食情報が含まれていないことを見抜けないし、「グラノーラというものを食べてみたい」という言葉が、グラノーラ未体験の意味を含むことを見抜けないからだ。

それでは、企業や団体などが、SNSとAIをどのように使いこなしているのかみていこう。

キリン株式会社でのAI活用

ビールメーカーのキリンは、SNSに投稿された「一番搾り」関連の情報を集めることにした。一般消費者がSNSで一番搾りについて語った内容を分析すれば、消費者心理をつかむことができる。例えばテレビCMの評判がわかれば改善策を検討することができるし、一番搾りの支持層がわかればその層に向けたプロモーションを打ち出すことができる。

キリンは2014年からSNS上に載った「一番搾り」のワードを探し始めた。しかしこれでは、例えば「ビールで乾杯しています」とつぶやいている場合、そのビールが一番搾りなのかどうかはわからない。

そこでキリンは2015年から、文章解析に加えて、投稿写真を解析することにした。

AIの画像認識技術を使えば、例えば一番搾りのラベルが少しだけ写っている写真でも検知できる。

こうした取り組みによってキリンは、一番搾りが消費されている生活シーンを割り出した。

例えば「一番搾りはスナック菓子などの軽食と一緒に飲まれることが多い」という事実がわかった。これは、キリン側の「一番搾りは食事の場で飲まれることが多い」という予想を覆す結果となった。

キリンはAIによるSNS解析結果をマーケティング戦略に使っている。

NewsdeckでのAI活用

Newsdeckは、一般の人がSNSにアップした事故や災害などの動画や静止画を収集し、投稿者と連絡を取って動画・静止画の使用許諾を得て報道機関に提供するサービスである。

NHK、フジテレビ、テレビ朝日などが利用している。

事故や災害の動画・静止画を探すのはAIだ。AIは交通事故や家事や爆発や煙や消防車や野次馬などの動画や静止画を学習し、それらと類似性がある動画・静止画を次々拾い上げていく。

このAIは、例えば焚火を囲んでいる人たちの動画・静止画は除外する。事故でも事件でもないことが明らかだからだ。

AIが焚火の動画を除外できるのは、火を囲んでいる人たちが笑顔だからだ。つまりNewsdeckのAIは、動画・静止画のなかの「現場の緊張感」すら認知できるのである。

ここで興味深いエピソードを紹介したい。Newsdeckは当初、確保したい動画・静止画をみつけると、ロボット(チャットボット)を使って投稿者に使用許諾の依頼をしていた。ところが投稿者からの返信率が上がらなかった。

そこで使用許諾依頼は人間に変更した。すると返答率が上昇したのである。

依頼やお願いや交渉は「人間の感じ」が伝わらないとうまくいかないのである。コンピュータだけに任せず、必要な場面で人間が介入することが上手なAI活用法といえそうだ。

隅田川花火大会でのAI活用

東京の隅田川花火大会といえば、約90万人が見学する夏の一大イベントだ。

この主催者である隅田川花火大会実行委員会が、警備にSNSとAIを使った。提供したのはスペクティという会社である。

フェイスブック、ツイッター、インスタグラム、ユーチューブなどへの花火関連の投稿をリアルタイムでAIが分析していく。投稿文章のなかの単語や投稿写真の内容などから事故、トラブル、渋滞情報、気象情報を抽出し、警備員の配置や迅速な対応に役立てた。

Post IntelligenceでのAI活用

Post Intelligenceは、上記の3つのAIによるSNS活用法とは種類が違う。Post Intelligenceは、SNSをやっている人をサポートするAIだ。

例えばツイッターは、「フォロワーがつくまでが大変」といわれるが、多数のフォロワーがついた人は、今度はフォロワーたちを飽きさせない投稿をしなければならなくなる。そうしないと離反を招き、これまでの努力が水泡に帰すからだ。

Post Intelligenceは「今日つぶやくべきこと」を提案してくれるのだ。例えばトランプ大統領の発言が世界中で話題になったら、それらのニュース記事のリンク(URL)を表示する。ユーザーはそのリンクにアクセスしてトランプ大統領の情報を入手して、それについての感想を自身のSNSに書き込むことができる。

またユーザーが書いた文章を、投稿する前にPost Intelligenceに「添削」してもらうことができる。Post Intelligenceは、その投稿内容が閲覧者たちの関心を引くかどうかをジャッジしてくれるのだ。

投稿内容のクオリティを高めたいSNSユーザーなら、いわゆる「駄文」はアップしたくないだろう。Post Intelligenceはあたかも編集者のようにSNSユーザーの投稿原稿を確認してくれるのである。

まとめ~無価値を価値ありに変える

Newsdeckのサービスは、一般人が撮影した動画や静止画を、報道というより価値が高い情報に変換している。また隅田川の警備では、SNSの投稿内容から事故やトラブルを早期にみつけ、警備に役立てている。

SNSをAIで分析すると、これまで無価値と思われていた情報が、突如価値ある情報に変わる。Tとネットの申し子であるSNSとAIが、タッグを組んで新たな価値を生み出した現象はとても興味深い。


<参考>

  1. ビッグデータが企業の命運を分ける――ディミトリ・マークス氏に聞く、ビッグデータを経営に活用する意味(後編)(mugendai)
    https://www.mugendai-web.jp/archives/172
  2. 約24万人分の個人情報漏えい、米国土安全保障省が明らかに(ZD Net Japan)
    https://japan.zdnet.com/article/35112766/
  3. ソーシャルビッグデータ活用のための研究事例(KDDI研究所)
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/bplus/9/2/9_81/_pdf
  4. (3)SNSがスマホ利用の中心に(総務省)
    http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc111130.html
  5. 金投資:生産コストが下支え(東証マネ部)
    https://money-bu-jpx.com/news/article013282/
  6. 金の採掘には金(かね)がかかる!?~採掘コストにもお国の事情が…(なんぼや)
    https://nanboya.com/gold-kaitori/post/%E9%87%91%E3%81%AE%E6%8E%A1%E6%8E%98%E3%81%AB%E3%81%AF%E9%87%91%EF%BC%88%E3%81%8B%E3%81%AD%EF%BC%89%E3%81%8C%E3%81%8B%E3%81%8B%E3%82%8B%EF%BD%9E%E6%8E%A1%E6%8E%98%E3%82%B3%E3%82%B9%E3%83%88%E3%81%AB/
  7. 平成30年隅田川花火大会 観客数・花火コンクール結果について(台東区)
    https://www.city.taito.lg.jp/index/release/201807/press0729.html
  8. 隅田川花火大会、AIがSNS投稿を監視 警備に活用(AI+)
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1707/21/news073.html
  9. 画像認識AIによるSNS投稿分析でキリン「一番搾り」の消費シーンをリサーチ(TIS)
    https://www.tis.jp/casestudy/casestudy_93.html
  10. AIがSNSから“現場の映像”を収集、「Newsdeck」にフジテレビが出資(TC)
    https://jp.techcrunch.com/2016/07/26/spectee-raises-1million-yen/
  11. Post Intelligenceがあなたのツイートを良いものにするかも?(TC)
    https://jp.techcrunch.com/2017/03/25/20170323post-intelligence-launch/
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