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AI導入成功の鍵とは?

AI導入の秘訣は、しっかりとした目標を定めることだ。100%の成果を得るのを期待するのではなく、適応範囲を定め、その範囲内で従来よりも効率を高めることが重要である。

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日本、海外問わず、AIの導入を検討する企業は増えつつある。とはいえ、AIをどのように活用するかをAIシステム開発者に丸投げすることはできないだろう。「AIはヒトの判断を超えてしまった」というのは、半分正しいが半分誤解に基づく。

AIにできることは何かを踏まえ、成功に導く鍵をしっかりと把握したい。

AI(人工知能) 導入 成功

AI導入における重要な観点とは

囲碁の名人を打ち負かしたアルファ碁のインパクトが強いせいか、AIを活用すれば何でも可能という印象をもつ方もいるだろう。AI、とくにディープラーニングと呼ばれる機械学習が得意とする分野は、画像解析や言語解析といったパターン認識が中心だ。囲碁の例を挙げると、碁石を盤面に置く、相手の碁石をできるだけ多く囲むといった非常に限られたルールの範囲内で、ヒトよりも能力を発揮するといえよう。

国立情報学研究所が開発した「東ロボくん」と呼ばれるAIが偏差値57を叩き出した。表面的に読むと、平均的な大学受験生よりも大学入試問題を解く能力があると錯覚するかもしれない。しかし、あくまでビッグデータから入試問題の解答を出力しただけであり、問題文の意味を把握したのではない。現状では、ヒトの判断の一部分について、ヒトよりも優れた答えを出すにすぎない。

つまりAI導入に不可欠なのは、「ヒトの判断の一部分」を発見することだといえよう。そのためには、AIを導入する範囲や目標をしっかりと定める必要がある。「大手企業がAIを導入しているから、とりあえずウチの企業も」というのは危険だ。単純にシステムを効率化するツールならば、AIに頼らない方法も残されている。作業の効率化を図るRPA(Robotic Process Automation)がAI同様、産業界で重要なキータームだが、RPAはかならずしもAIを必要としない。つまり、「〇〇を行ないたい」と目に見えるかたちで目標を定めることで、本当にAIを導入できるのか、AIを導入しないシステムで大体できるのか明確化されるだろう。

AIを導入する範囲に関して述べると、100%の成果を求めるのを期待してはいけない。AIによって導出する結果を求めるためには、ビッグデータが必要だ。100%の成果を出力するルールが必要であるとともに、機械学習に必要なビッグデータも用意しなければならない。ところがビッグデータは通常限定的にしか得られず、その範囲内で答えを出さなければならない。「東ロボくん」の例だと、東大合格できるAI、つまり100%正解を弾くAIではなく合格者よりも数点正答率を挙げるAIを目指す、というように導入する範囲を定める必要がある。もっとも「東ロボくん」のように、実際には東大合格者を上回る成果を得られない、といったケースも起こりうる。ビッグデータが不足している、東大合格者を上回る成果を出すルールが定まっていない等原因は考えられるが、まずはこの点を押さえたい。

AI導入でよくある失敗例とは

「とりあえずAI」は非常に危険

多くの企業がAI導入を検討、実証実験に乗り出しているなか、実用化までこぎ着けられないケースが相次いでいるという。2012年頃に始まった第3次AIブームは、トロント大学のヒントン教授が主導したディープラーニングを活用し、画像認識コンテストで驚異的な成果を挙げたことから始まる。囲碁のチャンピオンに勝利するなどディープラーニングがもたらしたブームは素人目にも分かりやすく、それゆえに誤解も生じやすい。

「とりあえずAIを導入してくれ」「AIならなんでもできる」というのは、典型的なAIに対する誤解だろう。AIを導入するためには、学習に使用するビッグデータが不可欠だという点を経営陣に理解してもらうことが先決だろう。

AIの特性を理解すること

AIへの理解が済んだ第2段階で生じやすい失敗に、AIの特性を理解していない点が挙げられる。典型例が自動運転だ。米電気自動車メーカーのテスラが販売する「モデルX」が、2018年4月に自動運転モード使用中に死亡事故を起こしたことは記憶に新しい。自動運転のように、人命にかかわる用途の場合、AIの判断が間違うのは致命傷につながる。

ところがディープラーニングを代表とする機械学習では、AIの判断の根拠をヒトが読み解くのは難しい。ご存知のように、ディープラーニングは入力層と中間層、出力層の3層に分かれる。ビッグデータを入力層で取り込み、中間層で学習し、その結果を出力層から取り出すという大まかなイメージをもたれたい。この中間層での処理がネックで、ビッグデータから特徴量を抽出する。その特徴量がヒトにとって可視化しにくい。そのため中間層での処理がブラックボックス化され、ヒトがディープラーニングによる処理の根拠を読むのが難しくなる。

人工知能はディープラーニングだけではない。従来からの手法である決定木などを活用すれば、その判断の根拠を追いやすいという。先述のRPAもそうだが、ほかのシステムで代替できるか検討することも重要だろう。

このほかにも、コストに見合うだけの成果をディープラーニングの活用で得られるのか、企業が求めるサービスの品質を保てるか、ビジネスモデルを確定できるか等、問題点も山積みだ。

とはいえ、ビジネスには失敗がつきもの。すべての挑戦が成功することはあり得ない。ディープラーニングを活用した手法での実現が難しいとなれば、別の手段を模索することもできよう。

AI導入で失敗しないために必要なことは

では、AI導入で失敗しないために必要なことは何だろうか。

AI導入のステップとして、要件定義のようにテーマを最初に決めなければならない。PoC(概念実証)等を実施し、設計のコンセプトにより十分な効果を発揮するかを確かめ、本格的な開発段階へと移行する。このテーマを決める段階で、範囲を広くすぎないのが重要だろう。AIに学習させるためのデータ作成が難しくなってしまうからだ。適用先を絞ることで、成果を出しやすくなる。

ここで高すぎる精度を求めることも、実用化の足かせとなるであろう。KPI(重要業績評価指標)の設定には気をつけたいところだ。

パンのレジ処理を行なうAI「BakeryScan」

AI導入の成功事例として、独自に人工知能システムを構築した「BakeryScan」を取り上げてみよう。

BakeryScanを開発したのは、兵庫県西脇市に本拠を置くシステム会社のブレインだ。関西圏を中心に約100店舗、約180台が稼働しているという。2015年にはグッドデザイン賞にも選ばれた注目のシステムだ。

もともと、経験の少ない外国人でもパン屋のレジ打ちや接客ができるシステムを構築してほしいという依頼から始まった。ディープラーニングが画像認識コンテストで注目を浴びた2012年より前の2008年の話だ。

トレイに乗ったパンを認識し、レジ処理をするシステムを開発することになった。パンにバーコードをつけられないので、画像認識によって処理を行なう必要がある。兵庫県立大学と共同で研究・開発したものの、困難を極めたという。手作りパンなので、見た目が同じでも別の種類のパンや、同じ種類でも個体差が生じるなど想像以上に難しい。同じ職人でも、全く同じパンを作られるわけでもない。またパン同士が重なり合った場合、誤認識するケースがあったという。

ブレインが考案したのが、あらかじめパンから特徴量を抽出するというもの。通常ディープラーニングでは、教師データから特徴量を機械学習により自動的に抽出するが、開発者の手によってあらかじめ決めたという。ディープラーニングよりもシステムが軽くて済むのだそうだ。

ところがパン同士が重なった場合、どうしても高められなかった。そこでレジ店員によって修正するシステムとの協働で、誤認識を回避することにしたという。2016年以降、口コミでシステムの導入を検討したいという企業が増えているそうだ。

BakeryScanの事例が示す教訓

この事例が示すのは、目的が非常に明確化していることである。「外国人でもパンのレジ処理を行なえるようにしてほしい」という要求は実にシンプルだ。また100%の精度を求めるのではなく、従来よりも高い効率でパンのレジ処理を行なえるシステムに転回したのも大きい。

最後に見逃せないのが、ディープラーニングを使用していない点だ。ディープラーニングでは中間層がブラックボックス化していて処理の根拠が見えにくいといったハードルがあった。ところが、開発者が特徴量を決めていることで、どのような処理が行われているのか可視化しやすい。ディープラーニングでダメなら、代替システムを考えるべきだろう。

AI導入成功の秘訣は目的の明確化と完璧を求めないこと

ディープラーニングが世間の注目を浴び、はや6年。「とりあえずAIを導入して」という段階の経営陣は少ないかもしれないが、それでもAI導入を実用化にまでこぎ着けられないケースも多々存在する。

AI導入を成功に導くには、目的の明確化はもちろん、定められた適応範囲内で効率を求めるのが肝要だといえよう。

AI(人工知能) 活用


<参考>

  1. POCという言葉にはどうやら3通りの意味があるようだ(オルタナティブ・ブログ)
    http://blogs.itmedia.co.jp/toppakoh/2017/08/poc3.html
  2. ビジネスITにおけるPoCの重要性(野村総合研究所)
    https://www.nri.com/~/media/PDF/jp/opinion/teiki/it_solution/2017/ITSF170304.pdf
  3. 「KPI」とは? 正しい意味と使い方、その効果とKGIも紹介【ビジネス用語】(マイナビニュース)
    https://news.mynavi.jp/article/20180213-584004/
  4. 何が違う?KPI、KGI、そしてOKR 目標達成のための設定のコツとは?(データのじかん)
    https://data.wingarc.com/what-is-kpi-kgi-3956
  5. 「すごすぎる」――地方のパン屋が“AIレジ”で超絶進化 足かけ10年、たった20人の開発会社の苦労の物語 (ITmedia)
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1705/15/news081.html
  6. 導入店舗の声(BakeryScan)
    http://bakeryscan.com/case/index.html
  7. 「東ロボくん」が偏差値57で東大受験を諦めた理由(ダイヤモンド・オンライン)
    https://diamond.jp/articles/-/108460
  8. 「実験ばかり繰り返すAI無限ループの罠」(日経コンピュータ 2017年12月21日号)
  9. 「先行8社に見る成功の心得」(同上)
  10. 「AI導入 ここがツボ」(週刊東洋経済 2017年7月8日号)
  11. 「人工知能を企業に導入するための準備の仕方と注意点」(研究開発リーダー 14, No.7)
  12. 「AI導入を成功に導く2つのポイントと3つの事前準備」(KinChu 2018年5月号)
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