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日本の小売店はこんなにAI化していた。ネット通販に勝つ戦い方とは?

小売業へのAI(人工知能)導入が活発化している。AIは客の好みも行動も予測するから、店側は先回りして商品構成を考えることができる。日本のAI小売を紹介する。

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小売店をAI(人工知能)化することは、例えば経理業務のAI化とは違った難しさがある。経理業務は複雑かつルールが厳格なためAI化が難しいが、しかしAI化できればどの会社でも使えるようになる。
しかし小売業界は、店によって商品も客層も接客レベルも異なる。店ごとにAIに置き換えたい業務が異なるので、ほとんど「オーダーメードAI」といってよいその店独自のAIを構築する必要がある。
日本の小売店のAI化の今を探る。

AI(人工知能)-小売店舗

パルコはAIでネット通販に打ち勝った

パルコは小売りもするが、メーンはビル経営だ。パルコは自社ビルに約3,000ものファッション感度が高い店舗に入居させ、その家賃収入を得ている。
パルコはテレビCMでファッションイメージを強調し、魅力的なテナントを集め、集客してきた。客たちは「パルコに行けばいいものが買える」と信頼した。
ところがそのパルコに危機が訪れた。その打開策としてAIが導入されたのである。

パルコの危機感とは

従来のパルコは、個々のテナントの集客や接客に深くかかわることはなかった。パルコ本体はイメージ戦略や広告に力を入れ、客との接点は個々のテナントに任せていたのである。
世の中に旺盛な購買力があった時代はそれでもよかったが、景気が低迷すると、購入する商品を徹底的に吟味したうえで、さらに「おもてなし」を求める客が増えた。
さらに必要な商品を最短距離で安く買いたい客はネット通販に流れた。
従来のビジネスモデルでは太刀打ちできなくなったパルコは2013年に、「24時間パルコ」を打ち出した。

「24時間パルコ」とは

24時間パルコの狙いは、1人の客と長く付き合うことである。従来のパルコの店は、客の来店時しか客と接触できなかった。もちろん各店舗は個別にダイレクトメールを送るなどしていが、パルコが一丸となって取り組んでいたわけではない。
24時間パルコのツールは、
・スマホアプリ「ポケットパルコ」
・ネット通販との融合「カエルパルコ」
・ショップブログ
などだ。

ポケットパルコは会員登録することでポイントが貯まったりクーポン券がもらえたりするシステムである。ポケットパルコはスマホアプリなので、ネットを経由してパルコ側から広告やPRを送ることができる。
カエルパルコはネットで注文した客がパルコの実店舗で商品を受け取るサービスである。ネットで注文すると5%割り引かれ、さらにポケットパルコのポイントを貯めることもできる。
24時間パルコの目玉はショップブログを強化したことだ。
各店舗の店員が、商品をアピールする記事を作成し、パルコ専用のブログにアップする。その記事を閲覧した客がそこに紹介されている商品を気に入ったら、そのまま購入することができる。

ただこのようなサービスは特に目新しさは感じられない。既存のIT技術を実装すれば完結する。
そこでパルコは、客の懐により深く入り込むためにAIを導入した。

AI導入

客の志向を先読みする

パルコは、24時間パルコをバージョンアップするためにAIを導入した。客に買い物アプリに登録「してもらったり」、ショップブログを読んで「もらったり」するだけでなく、AIを使って積極的に商品を推奨(リコメンド)するようにしたのである。
AIが客の購買行動や商品閲覧から好みを分析し、その客が求める商品情報をその客だけに送信するようにしたのである。またAIがショップブログの内容を吟味して、その内容を好んで読みそうな客にリコメンドするようにした。
24時間パルコとAIのドッキングによってパルコは、来店前と来店中と来店後の客をキャッチできるようになったわけである。

スーパー「ベイシア」はAIで経営効率化

関東と東海に大型スーパーを展開している株式会社ベイシアは、レジ待ちの混雑解消にAIを活用している。

レジ担当者を配置する司令塔

レジ待ちの混雑は、大型スーパーの長年の課題だ。代金支払いのために列に並びたくないという理由で、多少割高でもコンビニを選ぶ客は少なくない。
そこでベイシアではレジ近くに「司令塔」の店員を配置し、レジ待ちの客が増えそうになるとレジ応援者を呼び、レジの稼働台数を増やして混雑を起こさないようにしている。

しかしベテラン司令塔でも、その目測を誤ることがある。またレジ応援者は別の業務をしているので、司令塔から応援要請がかかってもすぐにレジに向かうことができない。そこにタイムラグが生じ、レジ待ち混雑が発生してしまうこともあった。
そこでベイシアは、AIを導入したのである。

監視カメラから入店者数を数えレジ混雑を予測する

ベイシアが導入したAIは、OKIの「店舗業務改善支援ソリューションVisIoT(ビショット)」だ。レジの稼働数を決める司令塔店員が持つスマホの専用アプリに、15分後と30分後に必要になるレジ数を表示する。
ビショットはAIの画像認識技術をベースにしている。ベイシアの店舗内に監視カメラを設置し、客数や男女、年齢をAIに判別させる。
AIはさらに、入店した客が大体何分後に商品を持ってレジに並ぶかを学習し、入店者数から15分後または30分後のレジに向かう人を割り出すのである。

OKIの小売業ソリューションとは

レジ待ちの混雑を解消するメリットは、客の購買ストレスを解消するだけにとどまらない。レジ混雑予測AIを開発したOKIは、スーパーがビショット(VisIoT)を導入すると、次のようなソリューションが得られるとしている。

・レジの適正台数の見える化
・レジ混雑予測
・従業員の勤務シフトの適正化
・商品棚の欠品の検知
・常習の万引き犯など特定人物の検知
・待ち時間予測
・店内環境の見える化
・従業員の動線の適正化
・客の動線の分析(店舗内レイアウトの適正化)

いずれも小売業の生産性を高める内容だ。
すでに紹介済みの「レジ適正台数の見える化」と「レジ混雑予測」以外のソリューションを詳しくみていく。

従業員の勤務シフトの適正化

スーパーでは、レジ専用のパートの他に、他業務をメーンにしている従業員にもレジを担当させている。レジ業務は繁忙時間と閑散時間の差が激しいので、従業員の勤務シフトをつくっている労務担当者は、それに合わせて人員配置をしなければならない。
AIでレジ混雑が日単位や週単位、月単位で予測できるようになると、レジ専用パートを過不足なく配置できるし、他業務をメーンにしている従業員にもレジ応援時間を伝えることができるので業務を組み立てやすくなる。

商品棚の欠品の検知

AI監視カメラを活用すれば商品棚の様子もAIに観察させることができる。棚の商品が少なくなったら商品レイアウト担当に知らせて補充させることができる。

常習の万引き犯など特定人物の検知

AI監視カメラは人物の顔と属性を認識できるので、事前に特定人物の顔を学習させれば、その者が入店したときに警備担当に知らせることができる。
例えば常習の万引き犯の監視カメラ映像をAIに覚え込ませれば、その人物の店内での行動を追跡できる。

待ち時間予測

小売店ではレジ以外にも多くの待ち時間が発生する。混雑を予測できないと、機会損失(稼ぎ損ない)を膨らませることになる。人気飲食店の行列に嫌気をさして返ってしまうケースが典型例だ。
AIで待ち時間を予測できれば、店員を増やすなどして対応できる。
また来客数を予測できれば適切な仕入れができるので、原材料が足りなくなることも廃棄ロスも生じさせないで済む。

店内環境の見える化

AI小売店にするには監視カメラの台数を増やす必要がある。つまり多くのカメラで常時店内を撮影することになる。
店内の映像は「お店づくり」の貴重な資料になる。

従業員の動線の適正化

AI監視カメラが追跡するのは客だけでない。AI監視カメラに従業員を追跡させることで無駄な動きをしている者がいないか確認することができる。
これは従業員管理を強化することでもあるが、しかし業務改善につなげることができる。というのも、動線が適切でないと従業員は働きにくさを感じるからだ。
従業員の動きを観察することで動線を改善できれば、従業員が楽に仕事ができるようになるのである。

客の動線の分析(店舗内レイアウトの適正化)

AI監視カメラで客の動線を分析できれば、店舗内のレイアウトを改善できる。
例えばあるスーパーが入り口からレジまで「野菜コーナー → 鮮魚コーナー → 生肉コーナー → 乳製品コーナー」の順に並べていたとする。AI監視カメラで分析したところ、生肉を買い物かごに入れた客が野菜コーナーに戻ることが多いことが判明したとしよう。
それがわかれば、生肉コーナーにも玉ねぎとジャガイモのニンジンを置くことができる。こうすることで生肉を見てカレーをつくりたくなった客が野菜コーナーに戻らなくて済む。

まとめ~客の心を読んで売ることができる〜

人はあまり本音を明かさない。しかし小売業は、客の本音をとらえないと客が求める商品を用意することができない。
AIなら膨大な購買履歴から客の本音を見抜くことができる。AIは、ある客が「商品Aを買おうか商品Bにしようか30分迷った挙句に商品Aを買った」ことも見逃さない。その客が商品Aを買った後に、すかさず商品Bの宣伝を客のスマホに送ることができたら、客は後日、商品Bも買うかもしれない。客の心を読めるAIを小売業が渇望するのは当然のことである。


<参考>

  1. PARCO CO., LTD. FACTBOOK 2018(パルコ)
    https://www.parco.co.jp/pdf/jp/library/file180409j_vKpBkBqW.pdf
  2. 「カエルパルコ」リニューアルを記念し、お得なキャンペーンを実施中!(パルコ)
    https://www.parco.co.jp/pdf/jp/20170207kaeruparcorenew.pdf
  3. 「AIとIoTは接客のためにある」、パルコが目指すデジタル時代の小売業(IoT)
    https://iotnews.jp/archives/89577
  4. AI予測で「混まないレジ」――大手スーパー、ベイシアの店舗革命(ビジネスネットワーク)
    https://businessnetwork.jp/Detail/tabid/65/artid/6302/Default.aspx
  5. 店舗業務改善支援ソリューション「VisIoT」(OKI)
    https://www.oki.com/jp/visiot/
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