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AIレジ導入はメリットだらけ【パン屋でも既に活躍!】

AI(人工知能)が、小売店のボトルネックだったレジ作業を変革している。「最も難しいレジ」のひとつであるパン屋のレジを克服し、客の買い物ストレスを劇的に減らす。

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レジとは、レジスター(register、金銭登録機)を短縮した和製英語であり、日本では小売店での支払いの仕組みのことを「レジ」と呼んでいることは周知のとおりである。

レジの機械は実に優れもので、商品の値段を打ち込むだけで消費税計算から合計金額の算定、売れた商品の記録、1日の売上額の集計まで行う。さらに、レジの機械にPOSシステムを搭載すれば顧客情報まで登録できる。

進化しているようにみえるレジだが、しかし小売店にとって「レジ問題」は、依然として解決できていない長年の課題である。それは、商品の値段の打ち込み時間がどうしても短縮できないからだ。確かにバーコードシステムは時短を進めたが、それでもなお、繁盛しているスーパーのレジ前は頻繁に大渋滞を引き起こし客にストレスを与えている。

このレジ問題をAIが解決するかもしれない。AIレジは小売店を劇的に変えるポテンシャルを秘めている。

AI-レジ

レジ作業は単純作業ではない

AIレジの仕組みを紹介する前に、レジ問題の真相をみておこう。そのほうがAIレジの「すごさとありがたみ」をより実感できるからだ。

AI(人工知能)-小売

レジ前に行列ができると、客はその間待たなければならない。客にとってはストレスでしかなく、その店の印象を悪くする。

そのため繁盛店では、顧客満足度の低下を防ぐため、レジの台数を増やして対応することになるが、レジには広いスペースが必要だ。レジの機器は台を含めると大人の半分ほどもあるし、レジ担当者が立つスペースも確保しなければならない。さらに客が歩く通路も必要になるし、買い物かごを置く台も要る。

これだけの面積を専有しながら、レジ業務は売上に貢献しないのである。レジスペースの面積を小さくできれば、より多くの商品を陳列できるのだが。

またレジ業務は繁忙時間と閑散時間の差が激しい。いくら繁盛している巨大スーパーであっても、ほとんど客がいない時間は少なからず存在する。このとき店長は人件費の観点からレジ担当者の数を最小限にしなければならないが、一歩間違えれば客が急増したときに対応できなくなる。

したがって店長はレジ担当者たちの勤務シフトづくりを工夫しなければならない。もしくは、レジ業務が閑散時間に入ったときにレジ担当者に別業務をさせるしかない。

ところが別業務をさせるということはレジ担当者に2つ以上の仕事を覚えさせることになり、負担増による離職を招きかけない。

そしてレジ問題の最大の関門は、レジ作業には高いスキルが必要である、ということだ。主婦がパートでレジ業務を担うことが多いので、レジ作業は単純作業にみられることもあるが、それは誤った認識である。

最近のスーパーは厳しい競争環境に置かれているため、日替わりで特売品や目玉商品を設定しなければならないのだが、これがレジ担当者を苦しめている。

例えば「今日だけジャガイモを1個5円で売る」というイベントを行ったとする。そのためだけにレジシステムの値段設定を変更することはできないので、1個5円のジャガイモの支払い処理はレジ担当者による手入力になる。

ジャガイモだけなら対応できるかもしれないが、同時にキュウリもトマトも特売にすると、レジ担当者の記憶力に頼ることになる。スキルが低いレジ担当者であれば、値段表をみながら手入力することになるので、作業効率は著しく落ちる。

こうした課題のソリューションとしてAIレジが現れたわけだが、最先端技術はこの難問をどう解決するのだろうか。

AIレジの仕組み

AIレジの仕組みをみていこう。

AIにはさまざまな能力があるが、レジで必要になるのは画像認識機能だ。レジ業務では「どの商品がいくらなのか」という認識が必要になる。バーコードシステムであれば、バーコードに商品情報と価格情報が登録されているので「どの商品がいくらなのか」を瞬時に認識できる。しかし商品のなかにはバーコードを貼り付けることができないものもある。AIレジはこれを克服した。

AIレジにはカメラが内蔵してあって、それで客が購入する商品を撮影する。AIはその画像データから商品を特定し価格を割り出す。

AIレジがこの作業をこなせるのは、商品の外観とその価格を事前に「学習」しているからである。これならバーコードを読み込んでいるわけではないので、どの商品にも対応できる。

AIの画像認識機能は優れていて、例えばペットボトルのお茶を立てても寝かしてもそれと認識することができる。

また、AIレジが優れているのは、例えば形が異なるジャガイモも「ジャガイモである」と認識できる点だ。AIは「手の平サイズのいびつな球体」と認識するだけでなく、「ミカンやキウイやサツマイモとは異なるもの」と認識することで、ジャガイモを特定するのだ。

AIの精度を高めると、メークインと男爵イモの違いも見分けられるようになる。

AIレジのメリット

小売店がAIレジを導入するメリットは大きい。レジの時間が大幅に短縮されるので客のストレスが減るし、レジを無人化できるのでレジスペースを小さくできる。無人化すれば人件費が浮く。

レジにスタッフが要らないので繁忙時間も閑散時間も関係なくなる。そしてAIレジは、店員たちがAIを「教育」することによってスキルを高めていく。

AIレジは小売店に、顧客満足度の向上とコストダウンと売り上げ増の「三冠」を与えることができる。これは薄利多売なビジネスを強いられている小売店にとって、収益に直結する大きな改革といっていいだろう。

BakeryScanの紹介

多種多様なパンを用意する街のパン屋に「レジ革命」をもたらしたのは、兵庫県西脇市のIT企業、株式会社ブレインだ。

同社が開発したパン屋専用のAIレジ「ベーカリースキャン(Barkery Scan)」は、その名の通りパンの形状を読み取る(スキャンする)ことで、購入金額を算出する。

街のパン屋のパンはビニール袋などで梱包しないので、バーコードを貼り付けることができない。しかもパン屋によっては数十種類のパンを用意する。さらに、大きさも形状がほとんど同じで、中身の具材だけ異なるパンもあり、具材が異なれば当然値段も違ってくる。

これまでこれらを識別するには、ベテランのレジ担当者が必要だった。彼らはパンの種類ごとに値段を記憶しているので、一瞬見ただけでレジを打つことができる。

パン屋専用AIレジ開発の難しさは、ベテランレジ担当者と同レベルにしなければ使い物にならない点だ。つまり、アンパンとホットドックを見分けるだけでは実用化に耐えられない。丸いパンと楕円形のパンを見分けられないと、計算間違いを起こしてしまう。

パン屋専用レジの開発には、2つの課題を乗り越えなければならなかった。そのためにはまず、似た形状だが異なるパンを見分ける能力が必要だった。例えば牛肉グラタンパンとチーズグラタンパンを「違うもの」と認識させなければならない。

また、形が異なる同じパンを同じパンであると認識する能力も必要だ。例えば豆パンの場合、豆がパンの外からみえるものとみえないものがあるが、これらを「同じもの」と認識させなければならない。

そのためにブレイン社は、AIレジにパンを読み込ませては「別のパン(または、同じパン)」と教えていき、鍛え上げていった。

ワンダーレジの紹介

サインポスト株式会社(本社・東京都中央区)が開発した「ワンダーレジスター」も優れたAIレジだ。

ワンダーレジスターの外観は、扉のない電子レンジのよう。ワンダーレジスターは無人コンビニでの利用を想定している。客は棚から取り出したおにぎりやペットボトルのお茶、菓子などをワンダーレジスターのなかに置くだけでよい。内蔵してあるカメラが商品を撮影しAIが商品を特定する。

支払いは電子マネーで済ます仕組みになっていて、これによって人だけなく現金も不要になる。無人コンビニは防犯態勢が脆弱なので、キャッシュレス化は欠かせない。

まとめ~「簡単そう」な作業の奥深さ

小売業界は長い間、レジ問題に悩まされてきた。物流が宅配業者や自動倉庫などの努力によってスピードアップしても、商品が消費者の手元に届く最終段階で渋滞を起こしていたのだ。

レジ打ち作業は一見すると簡単そうだ。レジ業務の内容を知らない人からすると、商品を確認して、金額を入力するだけにみえる。AIレジが開発されたいまだからいえることだが、「なぜこれまでソリューションがなかったのだろうか」。

AIレジは見事に「最終的には人間が手を下すしかなかった」レジ作業の課題をクリアした。

そのように考えていくと、機械化できそうでできない作業は、まだまだ身近にたくさん残っていそうだ。AIは、次は何を自動化するのだろうか。


<参考>

  1. 経営理念(ブレイン)
    http://corp.bb-brain.co.jp/company_info/
  2. 置くだけで会計を算出、日本独自のAIレジ「Bakery Scan」がつくる購買体験の未来(SHOWCASE GiG)
    https://www.showcase-gig.com/dig-in/%E7%BD%AE%E3%81%8F%E3%81%A0%E3%81%91%E3%81%A7%E4%BC%9A%E8%A8%88%E3%82%92%E7%AE%97%E5%87%BA%E3%80%81%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%8B%AC%E8%87%AA%E3%81%AEai%E3%83%AC%E3%82%B8%E3%80%8Cbakery-scan%E3%80%8D/
  3. 「すごすぎる」――地方のパン屋が“AIレジ”で超絶進化 足かけ10年、たった20人の開発会社の苦労の物語(AI+)
    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1705/15/news081.html
  4. Wonder Register(サインポスト)
    https://www.signpost1.com/wonder/
    https://signpost1.com/corp
  5. AI(人工知能)搭載レジの認識スピードに驚嘆(DIAMOND online)
    https://diamond.jp/articles/-/120922
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