AIがECサイトを変える「接客、分析、提案で購買意欲を高めろ!」

Eコマースは「ネットの申し子」であるが、AI開発にもネット技術は欠かせない。AIは「ITの進化形」だが、EコマースのビジネスフィールドをつくっているのもITだ。

つまりAIとEコマースはそもそも相性がよい。

そしてAIとEコマースの合体は、顧客や消費者たちが歓迎されるはずだ。Eコマースの顧客はAIに違和感を持たない。そしてEコマースの顧客たちは合理的な思考を持っているから、買い物が最適化されるのであれば、「裏で」AIが活躍していても気にしない。

実店舗(リアル店舗)の顧客たちがAIに抵抗感を示したり、AIを特別視したりするのとは対照的だ。

AIとEコマースの合体はすでに始動している。その事例を紹介する。

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Eコマースの課題とAIのソリューション

AIとEコマースの関係は「Eコマースの課題をAIが解決する」という構図になっている。

Eコマースが買い物革命を起こしたことは周知のとおりである。楽天は日本国内のあらゆるジャンル、あらゆる規模の小売店を飲み込み、アマゾンは同じことを世界中で行っている。フリマアプリは個人売買というミクロビジネスを集合させて一大ビジネスを築き上げた。

大企業も個人事業主も、副業をしているサラリーマンも小遣い稼ぎをしている主婦も、モノを売る場所として楽天やアマゾンやフリマなどのプラットフォームを大いに利用している。

そして消費者はスマホ1台あれば、国内や世界のあらゆる店や個人からモノを買うことができる。

さて、このようにEコマースは買い物革命を成し遂げたのだが、新たな問題が発生した。

情報と商品があふれて収拾がつかない

Eコマースではいま、情報や商品があふれかえる一方で、本当に必要な情報が不足しているため、収拾がつかなくなっている。

情報と商品が多すぎて、ITやネットの操作スキルを持っている人でもEコマースでの買い物に失敗することが増えている。

ネット調査サイトのマイナビニュースが、ネット通販でモノを購入したことがある人に失敗体験を尋ねたところ、「実物を見たら画像で見たときより安っぽかった」「サイズが合わなかった」「必要ないのに買いすぎてしまう」「返品したいがノークレーム・ノーリターンだった」という声が多く寄せられた(*)。とても快適な買い物をしているようにはみえない。

Eコマースは検索機能が優れているところが売りだったが、Eコマース内に要らない情報と要らない商品が増えすぎたことで、検索の有用性が低下しているのだ。

実店舗では「一言さんお断り」という一部の消費者を排除する仕組みがあるが、Eコマースでも結果的に「Eコマース素人」を排除してしまっているのである。

ただ「一言さんお断り」が実店舗側の戦略であるのに対し、「Eコマース素人の排除」はEコマース業者としては機会損失であり重大な課題だ。

そこでEコマースは、AIに力を借りるようになったわけである。

*:https://news.mynavi.jp/article/20160902-a439/

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物流をAI化した会社がネット通販を制する(海外編) - NISSEN DIGITAL HUB

AIはどのようにEコマースを便利にしていくのか

ではAIはどのようなソリューションを用意しているのだろうか。

答えは、「接客、分析、提案(レコメンド)の3つ」である。

AIは、消費者や顧客を喜ばせ(接客)、顧客を深く理解しようとする(分析)。そしてAIは、Eコマース業者が売りたいモノを上手にPR(提案、レコメンド)することができる。

それでは次の章で、接客、分析、提案(レコメンド)の3つのキーワード軸にして、AIとEコマースの合体事例をみていこう。

AI接客の「ecコンシェル」

NTTドコモが開発した「ecコンシェル」は、ネットショップ向けのAI接客システムである。

実店舗で顧客の支持を集めている小売企業がネットショップを立ち上げたとき、最初の壁になるのが「接客」だ。

実店舗であれば、店員が客と会話をしながら趣味嗜好を探ることができる。しかしネットショップの場合、閲覧者が最初に目にした商品を気に入らなければ離脱されてしまう。ネットショップには接客を担当する店員がいないからだ。

例えばあるネットショップで、初回訪問者向けの安価な商品Aと、リピーター向けの高額商品Bを販売したとする。

初回訪問者が最初に商品Bを見たら、値段の高さに驚いてサイトを離脱するだろう。一方、一度商品Aを購入したリピーターが再び商品Aを見たら、陳腐な印象を受けてこれも離脱につながってしまう。

ecコンシェルを使えば、「どの閲覧者に」「サイトの何を見せるか」をAIが決定し、実行してくれる。

例えば、ネットショップの販売担当者が「サイトの初回限定クーポンのページを、初回訪問者に確実に閲覧してもらいたい」という希望を持っていたとする。

するとecコンシェルはサイトの訪問者を分類し、初回訪問者をみつけたら初回限定クーポンのページを表示するのである。

実店舗で例えるなら、セレクトショップにTシャツを探しに来た客に、Tシャツ売り場に案内するようなものである。

さらにecコンシェルは自動で最適化する。ecコンシェルに搭載されたAIが閲覧者のサイト内の行動を分析し「自分で」改善していくのである。

ecコンシェルを使うには、ネットショップのサイトにecコンシェルの短いプログラム(タグ)を埋め込む必要がある。一度埋め込んでしまえば、後は自動で24時間365日休みなく「ネット接客」を続けてくれる。

AI分析の「AIアナリスト」

株式会社ワカルが開発したAI分析の「AIアナリスト」は2017年にグッドデザイン賞を受賞した。

AIアナリストは、サイトのアクセス解析を自動で行い、「重要ポイントだけを」提示してくれる機能を備えている。

ポイントは「重要ポイントだけ」だ。

アクセス解析ツールを導入し、自社のサイトの分析に乗り出す企業は少なくない。しかし、アクセス解析ツールが提示するデータを解釈することは、かなり難しい。

データだけ集めても、そのデータが示す「意味」を読み取ることができなければ、アクセス解析ツールは無用の長物でしかない。

AIアナリストは、グーグルの解析ツール「グーグル・アナリティクス」を使う。メジャーな汎用アクセス解析ツールを使うので、導入時に特殊な操作をする必要はなく、2分で済むという。

AIアナリストが提示するのは、「改善ののびしろ」「最近の大きな変化」「コンバージョンに影響を与えるデータ」といった、データ分析が苦手な人でも直感的に理解できるレポートだ。

その極めつけは、特定のページが「よいか悪いか」を提示する。

したがってEコマース業者は、よいページのコンテンツを充実させ、悪いページのコンテンツを差し替えれば、強みを強化して弱みを強みに変えることができるわけだ。

AI提案(レコメンド)の「ZETAレコメンド」

AI提案(レコメンド)で注目したいのは、ZETA株式会社のZETAレコメンドだ。すでにイトーヨーカ堂、ヤマダ電機、ビームス、ブックオフ、共同通信、コメ兵といった大企業や著名企業が導入している。

レコメンドとは、Eコマース消費者の潜在ニーズを掘り起こし、「本当に欲しい」商品を提案する機能のことである。

レコメンドが一般的な広告より優れている点は、客が企業からの商品PRを迷惑に感じないことだ。なぜならレコメンドは、その商品を欲しがっている消費者にしかPRしないからである。

ZETAレコメンドは、AIを使ってレコメンド機能の精度を高めたシステムである。

ZETAレコメンドはまず、顧客の購買履歴、閲覧履歴、検索履歴といった過去のネット上の行動を分析し特徴づけを行う。続いてその特徴から、顧客が求める商品や、その商品に求める機能、ブランド力、価格、購入時期を導き出す。

あとはショップサイトに顧客が「欲しがっているであろう」商品を表示したり、それぞれの顧客に合わせた広告をメール送信したりする。

例えばイトーヨーカ堂は自社の「ネットスーパー」というサイトにZETAレコメンドを組み込んでいる。

ユーザーがネットスーパーの検索で「牛乳」と入力すると、画面には牛乳はもちろんのこと、カスピ海ヨーグルトなどのそのほかの乳製品も表示される。

別のユーザーが自分のスマホで「牛乳」と入力すると、異なる乳製品が現れる。ZETAレコメンドがユーザーごとの好みの乳製品を選び出しているからだ。

そして同じユーザーが異なる日に同じキーワードで検索すると、表示される商品群が毎回少しずつ異なる。

それはZETAレコメンドのAIが、イトーヨーカ堂で取り扱っているすべての乳製品の人気度や在庫量、コンバージョン率を分析し、「今日の顧客が喜びそうなもの」と「今日のイトーヨーカ堂が売りたいもの」を選んでいるからだ。

まとめ~商品は十分ある。あとは整理だ

実店舗に置いてあってEコマースに並んでない商品はどれほどあるだろうか。それくらい小売店や流通企業はEコマースに販路を広げている。

そして逆に、Eコマースには並んでいるが実店舗には置いていないものは、日に日に増えている。

Eコマースという「陳列棚」にはすでに十分すぎるほどの商品が並んでいる。ただ現在のEコマースは、陳列の仕方が雑で買い物がしにくい。いまのEコマースに必要なのは整理だ。

AIが提供する接客と分析と提案(レコメンド)は、顧客がウィンドウ・ショッピングを楽しめるEコマースづくりに寄与するだろう。

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日本の小売店はこんなにAI化していた。ネット通販に勝つ戦い方とは? - NISSEN DIGITAL HUB


<参考>

  1. ネットショッピングで失敗したことランキング! 1位はやっぱり……!(マイナビニュース)
    https://news.mynavi.jp/article/20160902-a439/
  2. ecコンシェルのWeb接客機能と使い方(ecコンシェル)
    https://ec-concier.com/service/
  3. 人工知能がWebサイトを分析(AIアナリスト)
    https://wacul-ai.com/
  4. レコメンドエンジン ZETA RECOMMEND(ZETA)
    https://zetacx.com/zeta-recommend

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