日本国内でのディープラーニング成功事例4選

人工知能(AI)のなかでも、代表なのがディープラーニングだ。機械学習の一手法であり、大企業からベンチャーまで幅広い活用事例が存在する。そこで、ディープラーニングを活用した国内の成功事例を4つ紹介する

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みずほ証券の活用事例

みずほ証券がAIに取り組み始めたのは、比較的早い。2016年11月に、AIを搭載した株式売買システムを機関投資家向けに提供を開始した。個別銘柄ごとの注文状況や過去の値動きといったデータから、株価が30分から1時間後にどのくらい上昇あるいは下落するかをAIで予測するという。

株式の予測には、企業の業績や為替レートによって予測する「ファンダメンタルズ」と、過去の値動きから株価を予測する「テクニカル」の2種類がある。みずほ証券が取り組んでいる株価予測は、テクニカルに属する。

予測する対象となる株の出来高や売買契約の数など合計3900データに、日経225先物についての同様のデータ3900個を合わせた合計7800入力を、ディープラーニングにより学習させる。つまり、株価や日経225先物の時系列データから、株価を予測するというのだ。株価に限らず、時系列解析はディープラーニングが得意とする分野の1つである。

株式等を売買するための取引の高速化に対応する必要がある。ファンダメンタルズによる株価予測では、さまざまな経済指標を比較検討するため、行なうには時間がかかる。そのため、みずほ証券に限らず、AIによる自動売買プログラムを開発するヘッジファンドや証券会社といった金融機関は多い。

みずほ証券は、AIによる株式予測のシステムを自社で開発していた。しかし、2018年になって中国の北京大学と株式予測システムの開発に関して業務提携を行なった。AI分野をリードするのはアメリカや中国であり、その論文数も抜きに出ている。北京大学はAI分野での世界ランキングで第2位だという。

みずほ証券の株式予測システムがさらに進化を遂げるか、期待したい。

AIはさまざまな分野で活躍しているが、株取引の分野でもAIが活躍し始めている。AIは過去のデータをもとに株価の予想をすることができ、さらに自動で取引まで行ってくれるアプリもある。このコラムではAIを使った株取引の仕組みとその特徴、さらにはその代表的な事例...
AIによる株取引が主流になるのか【株価予想の仕組みや事例も解説】 - NISSEN DIGITAL HUB

スーパーセンター「トライアル」の活用事例

IT企業のトライアルHDは、福岡県でディスカウントストアやスーパーセンターを運営するトライアルカンパニーを傘下に収めている。トライアルカンパニーは、ITを活用したリテールに取り組んでいる。

2017年5月に小売業、食品メーカー、日用品メーカー、卸といった流通小売業に従事する企業が集まり、リテールAI研究会を創設した。新しいビジネスモデルを開発するオープンイノベーションを実践し、AIを活用した売場の可視化や受発注の自動化、レジ決済といった問題を解決しようとする。

研究会の成果が、トライアルが運営するスマートストアにも活用されている。そのひとつが、スマートカメラを使った欠品認識システムだ。ディープラーニングが最初に注目を浴びたのが2012年の画像認識コンテストであり、画像認識はディープラーニングがもっとも得意とする分野のひとつだろう。加えて、カメラの単価が安くなったのも、欠品認識システムの実現に大きく貢献している。

アイランドシティ店では、スマートカメラを店中に張り巡らせているという。従来人の目によって欠品を確認していたのを、カメラを通してAIで判断できるようになった。人が気づくには時間がかかるものの、カメラなら正確な時間を把握できる。これにより、商品がいつ欠品したのかといった情報を取得でき、精度の高い自動発注を実現できる。

このほかにも、棚割りのAI化やレジのない決済など、トライアルは取り組んでいる。無人化や省人化など、まだまだ改良の余地があるということだ。

賢人降臨(クエリーアイ)の活用事例

2018年の夏に、全国高校野球選手権大会の記事を朝日新聞がAIに執筆させるというユニークな試みがなされた。ニュース記事の場合、情報を伝えることが主眼なので、手の込んだ文章を構成する必要は少ない。それに対し小説の場合、表現の芸術性など、情報を伝える以上の複雑な作業が要求される。

ところが、AIで小説を執筆させる取り組みもまた行われている。AIが執筆した小説が、星新一賞の一次選考を通過したというのが話題になった。AI研究者である公立はこだて未来大学教授の松原仁氏の率いる「きまぐれ人工知能プロジェクト作家ですのよ」が、AIを活用して小説を執筆させた。星新一賞は、人工知能であっても募集できる唯一の文学賞であったのも、AI開発者からの募集が集まった要因のひとつだ。

クエリ―アイもまた、ディープラーニングを活用して、高度な文章を作成しようと試みる。「賢人降臨」と呼ばれるAIに執筆させた書籍を販売したのだ。福沢諭吉の「学問のすゝめ」と新渡戸稲造の「自警録」をもとに、クエリ―アイが開発したAI「零」に機械学習させた。それをもとに、「若者」や「成功とは」といった5つのテーマで、小説を執筆させた。

クエリーアイが「賢人降臨」を執筆させたAI「零」の詳細は公開されていないが、アプリ市場予測にも活用したリカレント型ニューラルネットワークを利用しているという。

たとえば「世界を制する」というお題を与えた場合に次のような文章が生成される。

世界を制する者ははなはだ少ない。
かつまた人を威なる勝利である。

(引用:http://queryeye.in/50

CEOの水野政司氏によると、新渡戸稲造の文章は論理や文章、節や構造が明快という点にあるそうだ。現代口語に近い文章なので、「自警録」が選ばれたという。

星新一賞に応募されたAIが執筆した小説は、校正や校閲の手続きを踏んでいる。人間との協働作業なしに、小説を執筆するのはまだまだ難しい。他方クエリーアイが出版した「賢人降臨」では、人間による校正等を一切行なっていない。ディープラーニングを使って現状でどの程度文章を執筆できるか判断するうえで、貴重な資料となるだろう。

タカノメ(ピリカ)の活用事例

ポイ捨てを調査するアプリ「タカノメ」を開発したのが、京都大発のベンチャー企業であるピリカだ。代表の小嶌不二夫氏は大学院休学中に海外を放浪し、各地で問題となっていたポイ捨てをなくそうと決意、ピリカを起業したという。

ピリカに限らず、いくつかの企業はゴミ処理にAIの導入を試みている。AI導入の一番のメリットは、作業の効率化だろう。ゴミ処理現場では人手不足が深刻で、さらに作業員の重労働が拍車をかける。省力化と自動化が要求され、AIやIoTといった最新鋭のテクノロジーを導入するのは自然な流れだろう。

ゴミ処理用にAIを導入できそうなのが、画像処理だ。ゴミを選別する作業も重労働であるため、機械による選別が一部導入されている。ところがプラスチックや金属の選別や、軽いゴミと重いゴミとを分別するといった粗い選別は、センサーだけでも可能だが、人間のような細かい選別は難しい。そこでディープラーニングなどの技術を用いて、ゴミを選別するといった活用がなされている。

ピリカのポイ捨てゴミを識別するシステムも、画像認識をディープラーニングで処理し、作業の効率化を図るというものだ。ピリカはクラウドファンディングサイトの「Kibidango」を通じて、ポイ捨ての調査システムである「タカノメ」の開発資金を募った。プロジェクトは2015年に開始され、100万円以上の資金の調達に成功した。

ポイ捨ての調査は、スマートフォンにインストールしたアプリを通じて実施する。調査エリアの歩道を撮影し、ピリカが開発した画像認識システムで、撮影した動画に映ったゴミの数や種類を解析する。コンピュータ処理することで、同じ基準で調査を実施可能だ。コンピュータの処理後、ヒトが最終的にゴミ捨て場に置かれたゴミかポイ捨てゴミかを判断し、ヒートマップや報告書を作成する。

タカノメの使用実績は多い。川崎駅周辺や大阪市東淀川区だけでなく、ニューヨークでも実施された。

ピリカは、タカノメ以外にも、ゴミ拾いを見える化するSNSアプリ「ピリカ」などを提供し、ゴミ削減活動に邁進している。

まとめ

以上、ディープラーニングの国内の使用事例を4つ紹介した。みずほ証券のような資金力のある企業が活用する一方、九州を拠点としたIT企業や、大学発ベンチャーなど比較的小規模な企業でもディープラーニングを用いてシステムを開発可能だ。クラウドファンディングを活用することで、今後ディープラーニングを使った斬新なシステムが開発されることを期待したい。

ディープラーニングが注目を浴びて5年ほどだが、その活用事例の幅広さには目を見張るものがある。そこで、ディープラーニングを活用した海外の成功事例を5つ紹介する。hotoMath(MicroBlink社)のディープラーニング活用事例画像認識の自動化を追究するマシンビジョ...
海外でのディープラーニング活用成功事例5選 - NISSEN DIGITAL HUB


<参考>

  1. A.I.等の先進的テクノロジーを活用した市場予兆管理ツールを開発 (みずほフィナンシャルグループ)
    https://www.mizuho-fg.co.jp/release/20180327_2release_jp.html
  2. みずほ証券、AIで株売買 機関投資家向け (日本経済新聞)
    https://www.nikkei.com/article/DGXLASGD14H6E_X11C16A0MM8000/
  3. 株の売買にディープラーニングを活用 (マイナビニュース)
    https://news.mynavi.jp/article/deeplearning-7/
  4. 【みずほ証券】北京大学との業務提携について (GoodWay)
    https://goodway.co.jp/fip/htdocs/jook1mnwf-303/
  5. 北京大学との業務提携について (みずほ証券)
    https://www.mizuho-sc.com/company/newsrelease/2018/pdf/20180903_01jp.pdf
  6. 【スーパーセンタートライアル】IT・AI技術を融合させたスマートストアが福岡にグランドオープン! (ECのミカタ)
    https://ecnomikata.com/ecnews/17886/
  7. クエリーアイが開発した人工知能「零」が書籍「賢人降臨」を出版 (クエリーアイ)
    https://queryeye.jp/news/20160824.html
  8. ピリカがポイ捨て調査システム「タカノメ」を開発するための資金をクラウドファンディングで調達中 (ハフポスト)
    https://www.huffingtonpost.jp/machinokoto/crown-funding-hawk-eye_b_7980604.html
  9. 世界をきれいにするピリカの挑戦!ポイ捨て調査システム「タカノメ」を開発したい! (kibidango)
    https://kibidango.com/124
  10. 「ポイ捨てゴミ」と戦うベンチャー(前編) (Talked.jp)
    http://talked.jp/58/
  11. ポイ捨て調査・分析「タカノメ」
    https://research.pirika.org/
  12. 「個人向け融資の新サービス 国内初、AIで信用度を自動算出」 (NIKKEI COMPUTER 2017.11.23)
  13. 「ITで流通を変える!AI・IoTを駆使した”第4次産業革命”を起こす」(DIAMOND Chain Store 2018.9.1)
  14. 『実戦データマイニング:AIによる株と為替の予測』(月本洋、松本一教著)
  15. 『リテールAI最強マネタイズ』(永田久男著)

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