人工知能が広告を自動生成する仕組みとは【広告業界の仕事は奪われるのか】

広告は消費者に商品やサービスを買わせるための営業行為である。しかし消費者は、「買ってください」「買ったほうがいいですよ」としつこくいわれても買わない。そして消費者はいつしか広告が嫌いになった。

そのため広告主や広告代理店は、「買ってください」と連呼する広告をしなくなった。消費者の感性に訴えかけることを心がけるようになった。さらに消費者の広告嫌いを緩和するため、広告に有益情報を盛り込んでコンテンツにするようにした。

人の心に訴える広告をつくることも、コンテンツふう広告を製作することも、極めて人間らしい仕事であると考えられている。ところがいま、広告業界にもAI(人工知能)が浸透しつつあるのだ。

AIが消費者の気持ちを汲み取り、適切な広告を的確なタイミングで消費者にみせることができる。さらに広告をつくるAIも現れた。AIがPR戦略を打ち立てて、キャッチコピーをつくり、レイアウトを構成し、試作品を1,000作品つくり、すべてをAI自体が審査して20作品を選ぶのだ。

これは未来の話ではなく、すでに多くの消費者がみている広告の裏側で起きていることである。

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広告業界はなぜAIを使うようになったのか

広告業界はなぜ、AIを使うようになったのだろうか。AIはまだ技術が確立していないツールであり、開発にはまだまだ高度な研究と高いコストが必要だ。

広告業界がそれでもAIを使うのは、危機感があるからだ。

ネット社会になって広告を嫌いになる人が増えた?

広告業界はいま、危機的状況にある。広告を嫌う消費者や視聴者が増えている。広告業界にとって広告は商品だから、それが嫌われているのは致命傷になりかねない。

消費者の広告を嫌悪する感情は、広告業界にとって大きなリスクになっている。これまでのテレビCMは、何十年もの間当然のこととして受け止められてきたため、視聴者の反発はそれほど大きくはなかった。新聞や雑誌の広告も、読み飛ばせばよいと考えられていたため、ボイコットは起きなかった。

しかしスマホで動画をみたりSNSを使ったりして、映像をテレビ以外の機器でみたりする機会が増えるにつれて、消費者や視聴者の間に「なぜ広告にここまでつきまとわれなければならないのか」という感情がわいてきた。

広告は邪魔もの扱いされるようになった。

月1,180円を支払ってでも広告を排除したい

ネットユーザーの広告嫌悪感は強く、例えば動画サイト「ユーチューブ」は、広告なしで動画を閲覧できるサービス「ユーチューブ・プレミアム」を開始した(*)。

*:https://www.youtube.com/red?gl=JP&hl=ja

ユーチューブを閲覧すると、数分おきに強制的に広告をみせられるが、月額1,180円を支払ってユーチューブ・プレミアムの会員になると、広告が現れないようになる。

つまりネットユーザーは、お金を支払ってでも広告を除去したいほど、広告を嫌悪しているのである。それを逆手に取ってビジネスにするユーチューブはとてもクレバーではあるが、これは広告媒体としての自己否定につながりかねない。

AIで迷惑広告を減らし有益広告だけを消費者に届ける

そこで広告業界はAIに目をつけた。

AIで広告を最適化することで、「迷惑広告」を減らすことができる。迷惑広告がなくなれば、残るのは有益な広告なので、それならば消費者や視聴者に歓迎される。

AIにそこまでの仕事ができるのは、AIは消費者やネットユーザーの好みを判定できるからだ。広告AIは「このユーザーはこういう広告は求めない。しかしこういう広告は喜んで眺める」と判断する。

AIが「人をみて」広告を差し替える

AIを使えば、その広告をみたい人にだけ広告をみせることができる。

製造業や食品業界、農業など、AI(人工知能)の導入は多岐にわたり検討されている。広告業界も例外ではなく、AIをすでに導入し実用段階に入った企業もあるなど、期待が高い。では、広告業界がAIを重宝する原因はどこに由来するのか。代理店は広告業務の何を自動化出...
広告はAIが作る時代?業界内でAIが重宝される理由とは - NISSEN DIGITAL HUB

みたくないときに広告をみせないアピアDSP

アピアジャパン株式会社(本社・東京都港区、本部・台湾)のアピアDSPは、ユーザーの「人柄をみて」広告を差し替えるAIを活用したシステムだ。

アピアDSPは例えば、あるユーザーを次のように分析する。

・このユーザーは仕事中には趣味のサイトは見ない

・ただプライベートの時間には趣味のサイトを大量に閲覧する

・パソコンでは趣味のサイトは見ないが、スマホでは趣味のサイトしか見ない

・このユーザーの業務時間は平日の午前8時から午後8時まで

・このユーザーが趣味のサイトを閲覧するのは、平日の早朝と夜間、休日

そのうえでアピアDSPのAIは、「この人のパソコンに趣味系の広告は送らない」「特に勤務時間中は送らない」と判断する。これにより広告主はこのユーザーから嫌われなくて済む。

しかしこのユーザーは、心の底では趣味について情報を得たがっている。そこでアピアDSPは、早朝や夜間や休日に、スマホに趣味系の広告を配信するのだ。

アピアDSPはすでに多くの企業が導入している。

例えば花王が販売している男性向けクリーム「ニベアメン」のネット広告では、アピアDSPを導入して1日のインプレッション数が182%増加した。インプレッション数とは、広告が表示された回数のことで、それだけ人々の目につきやすくなったわけだ。

さらにクリック率(CTR、広告を見た人がクリックした率)は22%向上した。

年齢と表情を読み取って広告を変えるフェイス・ターゲティングAD

博報堂などが開発した「フェイス・ターゲティングAD」は、AIの顔認証機能を使い、アウトドアメディアの前に現れた人に受け入れられそうな広告を出すことができる。

アウトドアメディアとは屋外に設置された広告物のことで、ディスプレー型のサイネージなどがある。デジタルサイネージは、広告コンテンツを頻繁に変えることができる。

フェイス・ターゲティングADのAIは、内蔵されたカメラが撮影した目の前の人の画像から顔の特徴や表情を読み取り、その人の年齢、性別、好み、気分、健康状態を予測する。

例えば「50代男性、顔色が悪い」と予測すれば栄養ドリンクの広告を映し出し、「30代女性、感情普通」と予測すれば感動的な人情映画の広告を出す、といったことができる。

「広告自動生成」はAIがバナー広告を自動につくるシステム

アピアDSPは、AIの観察力と分析力を活用したシステムだ。一方で、電通が開発したアドバンスト・クリエーティブ・メーカーβ版(以下、ACM)は、AIの創造性を活用している。

「AIが創造するのか」という問いについては議論の余地はあるが、ACMの「仕事っぷり」を知れば、「ACMが広告を想像したように」感じるだろう。

ACMは、サイトに掲載するバナー広告を作成する。電通ではこれを、広告自動生成機能と呼んでいる。

バナー広告は数センチ角の小さなスペースに、企業のロゴ、イメージ写真、10字程度のキャッチコピー、20字程度のボディコピーで構成されたシンプルな広告だ。

ACMは、担当者が4~5個のキーワードを入力するだけで、色合いの決定、ロゴや写真の配置をするレイアウトの決定、キャッチコピーづくり、ボディコピーづくりを自動で行う。

しかもACMは1件につき数千~数万の試作品をつくる。

そしてACMは、そのすべての試作品についてCTRの予測を行う。つまり自分でつくったバナー広告を自分で判定するのである。

そして「よさそうな」20本程度の試作品をアウトプットする。あとは人間の担当者が選考したり修正したりしてバナー広告が完成する。

まとめ~「仕事が奪われる」と考えるのではなく「雑用を押しつける」と考える

AI広告と広告AIは、今後ますます進化するだろう。なぜなら広告のIT化と、広告のネット化はこれからも進むからだ。広告主は従来のテレビCMや紙媒体広告の出稿数を減らし、ネット広告の予算を増やしている。消費者が「ネットばかり見ている」からである。

AIはITとネットとの親和性が高いツールといえる。IT技術を使ってクラウドでAIサービスを提供することもできるし、ネットでAIサービスを配信することも可能だ。

また、AI自体が「ITの申し子」であるし、AIはネットから多くの情報を吸収する。

したがって広告のIT化や広告のネット化が広告のAI化に発展することは自然な流れといえる。

AIがある業界で活躍するだろうという話になると、「仕事が奪われるのではないか」という議論が起きる。

先ほどみたアピアDSPは広告配信のコントロールを自動化するから、広告を掲載する媒体を選考する仕事をしていた人は仕事を失う。

電通のアドバンスト・クリエーティブ・メーカー(ACM)はまだβ版(試作的完成品)だが、この実用化が拡大すればデザイナーもコピーライターも仕事を失う。

――しかし、それは本当だろうか。

アピアDSPやACMができる仕事を「いま」している人は、その仕事しかしていないのだろうか。もし他の仕事をしているのでれば、AIができる仕事はAIに任せたほうが、他の仕事を効率化できるはずだ。

AIに雑務を任せる、と考えてみてはどうだろうか。担当者の雑務が減れば、その担当者は、よりクリエーティブでより熟考を必要とする仕事に集中することができる。

アピアDSPは、消費者に広告が届く時間帯を教えてくれる。せっかく消費者に届く「道」ができたのだから、後は心に残る広告をつくるだけだ。

ACMはシンプルなバナー広告の試作品を大量につくってくれる。つまり、ACMを使う担当者にとっては、大量の提案をしてくれる「部下」をもったようなものだ。その大量の提案のなかには、次の創作のヒントがあるはずだ。そのヒントを使って動画広告やテレビCMをつくっていけば、ネット広告とリアル広告を融合させることができる。

AIは「人間の脳のような機能」であるが「人間の脳」ではない。AIはシャープペンやパソコンと同じように、道具だ。使われることを考えるのではなく、使いこなすことを考えるほうが生産的である。

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<参考>

  1. ユーチューブ・プレミアム(ユーチューブ)
    https://www.youtube.com/red?gl=JP&hl=ja
  2. アピア(アピアジャパン)
    https://www.appier.com/ja/company-4/
    https://www.pr-table.com/appier

    https://www.appier.com/ja/case-studies/niveamen/
  3. AIで広告を出しわける!?「Face Targeting AD」とは?(this PLAY)
    https://thisplay.jp/ai%E3%81%A7%E5%BA%83%E5%91%8A%E3%82%92%E5%87%BA%E3%81%97%E3%82%8F%E3%81%91%E3%82%8B%EF%BC%81%EF%BC%9F%E3%80%8Cface-targeting-ad%E3%80%8D%E3%81%A8%E3%81%AF%EF%BC%9F/
  4. 「AIのバナー広告自動生成」のタネ明かし!?(電通報)
    https://dentsu-ho.com/articles/6247

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